- 英語リスニングに強くなる!英音研公式ブログ / 250.AIと経済社会
公開日
2025.12.21
更新日
2025.12.21
人工知能AIの進化によりシステムインテグレーション(SI)業の仕事はどうなるのか?
人工知能AIの進化は、知能レベルと適用範囲に基づき、2022年の終わりに出現した「特化型(ANI: Artificial Narrow Intelligence):生成AI」、2030年頃に出現するとされる「汎用型(AGI: Artificial General Intelligence)」、そして2040年頃に出現するとされる「超知能(ASI: Artificial Super Intelligence)」という、3つの異なるアーキテクチャと能力を持つフェーズで予測されています。今回はこのような人工知能AIの進化・普及がシステムインテグレーション(SI)業務にどのようなインパクトを与えるか、生成AI(ANI)に予測してもらいました。
***
システムインテグレーション(SI)業界は、生成AIの恩恵を最も直接的に受ける「爆心地」の一つです。従来のSIビジネスは「人月単価(工数×単価)」という、労働集約型のモデルで成り立っていましたが、生成AIはこの「工数」を劇的に削減するため、組織構造そのものが再定義されます。
一般的なSIerの組織図に基づき、主要業務ごとの雇用影響と、従業員が取るべき生存戦略を予測します。
生成AI(ANI)による影響:2030年頃まで
SIerの組織図に基づいた業務別雇用影響
生成AIは、特に「実装」と「検証」のプロセスにおいて、ジュニア層が担当していた業務をほぼ完全に代替します。
【開発・製造部門:最も大きな変革】
| 職種・業務 | 雇用の影響予測 | 生成AIによる具体的な変化 |
| プログラマー (PG) | 激減 | コーディング、デバッグ、リファクタリングの大部分をAIが担当。人間は「AIが書いたコードのレビュー」と「複雑なロジックの修正」のみに。 |
| テスター (QA) | 大幅な削減 | テストコードの自動生成、エッジケースの抽出をAIが実行。手作業による動作確認の仕事はほぼ消失。 |
| ドキュメント作成 | 消滅 | 設計書からマニュアル作成まで、コードを元にAIが自動生成。ドキュメント作成専任の要員は不要に。 |
【プロジェクト管理・設計部門:高度化と少数精鋭化】
| 職種・業務 | 雇用の影響予測 | 生成AIによる具体的な変化 |
| プロジェクトマネージャー (PM) | 維持〜減少 | 進捗管理やリソース調整はAIが支援。PMは「対人交渉」や「AIの判断ミスの責任」を負う高度な管理職へ。 |
| システムエンジニア (SE) | 役割の質的転換 | 詳細設計の作成はAIが担う。SEは顧客の抽象的な要望を「AIが理解できる精緻な要件」へ翻訳する役割に特化。 |
【営業・コンサルティング部門:価値の再定義】
| 職種・業務 | 雇用の影響予測 | 生成AIによる具体的な変化 |
| 営業・プリセールス | 維持〜強化 | 提案資料のドラフト作成をAIが加速。営業は「顧客との信頼構築」と「AI導入によるビジネス変革の提言」というコンサル職へ。 |
| コンサルタント | 高度な競争 | 一般的な業界分析はAIが提供。人間には「その企業固有の政治や文化」を突破する泥臭い解決力が求められる。 |
AIに業務代替された従業員はどうすれば良いか(生存戦略)
「指示通りにコードを書く」「マニュアル通りにテストする」というスキルは市場価値を失います。従業員は以下の3つの方向性へシフトする必要があります。
① 「AIオーケストラ(統合)」の専門家への進化
「1人でコードを書く」のではなく、「複数のAIエージェントを使いこなし、1人で10人分の成果を出す」プロデューサーを目指します。
- 具体策: プロンプトエンジニアリングだけでなく、AIを組み込んだ開発プラットフォームの構築や、AIエージェント同士を連携させるアーキテクチャ設計を学ぶ。
② 「ビジネス・トランスレーター」への転換
技術(AI)で「何ができるか」ではなく、顧客のビジネスを「どう変えるか」を語れる人材です。
- 具体策: 要件定義よりもさらに上流の、顧客の経営課題を特定する「デザイン思考」や「経営学」を学び、AIを武器にした事業開発担当へ転身する。
③ 「AIガバナンス・品質保証」の番人
AIが生成したアウトプットが、法的・倫理的に問題ないか、セキュリティ脆弱性がないかを「人間として保証」する役割です。
- 具体策: サイバーセキュリティ、AI倫理、著作権法などの知識を深め、AIの暴走を防ぐ「最後の砦」としての専門性を磨く。
SI業界の未来予想図
| 変化の方向 | 従来(2020年以前) | 生成AI時代(2030年頃まで) |
| 収益モデル | 人月単価(工数売り) | 成果報酬・価値提供・サブスクリプション |
| 雇用の形 | ピラミッド型(大量の若手PG) | ダイヤモンド型(中核を担う少数の高度専門職) |
| 武器 | プログラミング言語の知識 | AIの活用力・課題発見力・責任能力 |
結論としての提言
SI業界において「作業者」としての雇用は失われますが、「AIを使って社会をどう実装(インテグレート)するか」を考える人の需要はむしろ高まります。
AGI(汎用人工知能)による影響:2030年出現予想
AGI(汎用人工知能)の出現は、システムインテグレーション(SI)業界を「労働集約型(工数売り)」から「価値創出型(成果売り)」へと根本から変貌させます。
SIerの標準的な組織図に基づき、主要業務ごとの雇用影響と、職の代替が進む中での生き残り戦略を予測します。
組織図・業務プロセス別の雇用影響予測
AGIは、従来の「一部のコードを書く」補助的なAIとは異なり、要件定義からデプロイ、さらには運用中の自己修復までを自律的にこなす能力を持ちます。
【上流工程・フロント:営業とコンサルティング】
- 営業・プリセールス
- 影響: 事務的な提案書作成や見積算定は消失。人間は、顧客との「信頼構築」や「政治的調整」といった、データ化できない領域に特化します。
- コンサルティング・要件定義
- 影響: AGIが業界標準のベストプラクティスを即座に提示するため、一般的な分析職の価値は低下。人間には「その企業固有の組織文化」や「潜在的な痛みの言語化」が求められます。
【ミドル工程:設計とプロジェクト管理】
- システム設計・アーキテクチャ
- 影響: AGIがインフラ構成やデータベース設計の最適解を秒単位で出力します。設計者の役割は「作る」ことから、「AIが出した設計の妥当性を監査する」ことへシフトします。
- プロジェクトマネジメント(PMO)
- 影響: スケジュール管理やリソース配分はAGIが自動最適化。PMは、開発遅延時の人間同士の交渉や、プロジェクトの最終的な「説明責任」を負う役割へと純化します。
【下流工程・運用:開発と保守】
- 開発・プログラミング
- 影響: 最も激甚な影響。 AGIが完璧なコードを即座に生成するため、プログラマーという職種は消滅に近い状態へ。エンジニアは「AIエージェントの監督者」になります。
- QA・テスト(検証)
- 影響: バグの抽出、パフォーマンステスト、セキュリティ監査をAGIが自律実行。手動テスト要員は不要になります。
- 保守・運用(マネージドサービス)
- 影響: システムが自ら異常を検知・修復する「自律運用(Autonomous Operations)」が一般化。24時間体制の監視オペレーターは消失します。
業態別のインパクト比較
| カテゴリ | 雇用のインパクト | 予測される変化 |
| 大手SIer | ビジネスモデルの転換 | 「人月商売」が崩壊し、少数のプロフェッショナルがAGIを指揮する「知的ブティック型」へ。 |
| SES(派遣・準委任) | 壊滅的打撃 | 単純な作業工数への対価が消滅。技術提供ではなく「ドメイン知識」を持つ者のみが生き残る。 |
| ベンチャー・SaaS | 超高速・超低コスト化 | 1人のエンジニアがAGIを使い、従来の100人分のサービスを1日で構築可能に。 |
AIに業務代替される従業員のための「生存戦略(サバイバルガイド)」
「指示通りにシステムを作る」スキルの市場価値はゼロになります。職を失うリスクがある、あるいは業務が代替された従業員は、以下の3つの方向にシフトすることを推奨します。
① 「AIオーケストレーター」への進化
単一のAIを使うのではなく、要件定義AI、コード生成AI、監査AIなどの複数のエージェントを組み合わせ、一つの巨大システムを完成させる「監督役」です。
- 具体策: プログラミング言語の知識を捨て、AGIへの「精緻な要求定義(インテント・デザイン)」と「統合管理(オーケストレーション)」の技術を磨く。
② 「AIガバナンス・倫理監査職」への転換
AGIが作ったコードに「偏見」はないか、著作権侵害はないか、セキュリティホールはないかを「人間として保証し、責任を取る」役割です。
- 具体策: サイバーセキュリティ、AI法規、倫理学を学び、AIが暴走した際の「最後のブレーキ役」としての専門性を確立する。
③ 「ドメイン×ヒューマン」のブリッジ人材
ITの知識に加え、特定の業界(医療、農業、金融など)の「現場の痛み」を誰よりも深く理解し、AGIに解決策を教え込む役割です。
- 具体策: 技術以外の専門分野を持ち、「AIには解けない人間社会の非効率性」を発掘し、AIに実装させる。
まとめ:AI時代に求められる「エンジニア」の定義
| 変化の項目 | 従来(2020年以前) | AGI時代(2030年頃以降) |
| 価値の源泉 | コードを書く速さ・正確さ | 「問い」を立てる力、倫理的判断 |
| 求められる能力 | 技術への習熟(How) | 目的の設定(Why)、責任の引き受け |
結論: SI業界において「作業」で稼ぐ時代は終わります。生き残る道は、組織の最上部での「最終的な決断と責任(Accountability)」か、顧客と直接向き合う最前線での「共感と課題の発見(Empathy)」の二択に絞られます。
ASI(人工超知能)の出現による影響:2040年頃出現予想
ASI(人工超知能)が実現する世界では、「知能」そのものが無限に供給されるインフラとなります。システムインテグレーション(SI)業界において、これまで「高度な専門性」とされていたプログラミングやシステム設計、プロジェクト管理の大部分はASIによって数秒で完結するようになります。
SI会社の標準的な組織図に基づき、ASIがもたらす破壊的影響と、人間のためのサバイバル戦略を予測します。
組織図・業務プロセス別の雇用影響予測
ASIは「作る」「直す」「守る」という技術的工程をすべて自律化します。SI企業のビジネスモデルは「人月(工数)」から「価値・責任」へと強制的にシフトします。
| 部門・機能 | 雇用の影響予測 | ASIによる決定的変化 |
| 営業・プリセールス | 極少数精鋭化 | ASIが顧客企業の経営課題を察知し、最適解を提案。人間は「法的責任の所在」と「経営層同士の信頼構築」のみを担当。 |
| コンサルティング・要件定義 | 消滅〜高度化 | ASIが世界中のベストプラクティスから要件を抽出。人間は「言語化できない感情的ニーズ」の翻訳と、AIへの「意志(目的)」の注入に特化。 |
| 設計・アーキテクチャ | 消滅 | ASIが未知のプロトコルやOSレベルからの最適化をミリ秒で行う。人間が「アーキテクチャ」を考える余地はなくなります。 |
| 開発(コーディング)・テスト | 消滅 | バグのない完璧なコードをASIが直接生成。プログラマー、テスターという職種は物理的に不要になります。 |
| インフラ・運用(保守) | 完全無人化 | システムが自ら脆弱性を発見し、自己修復。24時間監視やサーバー管理などのオペレーター業務は消失。 |
| 管理部門(HR・経理・法務) | 自律組織化 | 組織運営そのものをASIが最適化。人間は「社員のメンタルケア」や「AIの倫理監査」を行う数名に集約。 |
AIに業務代替代替された従業員はどうすれば良いか(生存戦略)
ASI時代、技術的な「How(どう実現するか)」の価値はゼロになります。人間が唯一ASIに勝る(あるいはASIが立ち入らない)領域は、「責任(Responsibility)」と「意志(Will)」です。
① 「インテント(意志)・デザイナー」への転換
ASIは「何でも」作れますが、自分から「これが作りたい」という欲望は持ちません。
- 具体策: 顧客の真の痛みや、社会をどう変えたいかという「目的」を定義し、ASIに指示を出すプロデューサー。
- 必要な力: 哲学、経営学、社会洞察力。
② 「レスポンシビリティ(責任)ホルダー」
ASIが算出した結果に対して、法的・道義的責任を取れるのは「人間」という法人格だけです。
- 具体策: システムがもたらす社会的な影響に対して、全責任を負う決断者。
- 必要な力: 倫理的判断力、危機管理能力、説明責任を果たす対人能力。
③ 「ヒューマン・エシックス(倫理)監査官」
ASIが効率を重視しすぎて人間性を損なう判断(例:特定の層を不当に差別するロジック)をしていないかを監視する役割。
- 具体策: 開発・運用プロセスの「透明性」と「公平性」を人間社会に保証するオムブズマン。
- 必要な力: 法学、倫理学、およびASIの挙動を監視する高度な監督技術。
ASI出現後のSI業界の姿
| 変化の項目 | AGI(汎用知能)時代まで | ASI(超知能)時代 |
| 価値の源泉 | AIを使いこなす技術、生産性 | 「最終的な責任」の引き受け |
| 雇用される理由 | スキルがあるから | 信頼(Trust)と身体性があるから |
| 組織の規模 | 数千〜数万人 | 数名〜数十名の「責任者集団」 |
結論:技術を捨て、「人間」に立ち返る
ASIは「知能」をコモディティ化(無料化)します。SI業界に従事する方々にとって最大の生存戦略は、「JavaやPythonといった技術への執着」を今すぐ捨て、「人間社会において誰が責任を取り、誰を幸せにするのか」という本質的なリーダーシップの領域に軸足を移すことです。
これまで培った「システム的な思考(ロジカルシンキング)」は、ASIを監視し、その挙動が人間に資するかを判断する際の強力な土台となります。
***
人工知能AIのパラダイムシフト:ANI、AGI、ASI
https://www.eionken.co.jp/note/ani-agi-asi/
著者Profile
山下 長幸(やました ながゆき)
・AI未来社会評論家
・米国系戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループ(BCG東京オフィス)及びNTTデータ経営研究所において通算30年超のビジネスコンサルティング歴を持つ。
・学習院大学経済学部非常勤講師、東京都職員研修所講師を歴任
・ビジネスコンサルティング技術関連の著書14冊、英語関連の著書26冊、合計40冊の著書がある。
Amazon.co.jp: 山下長幸: 本、バイオグラフィー、最新アップデート
Amazon.co.jp: 英音研株式会社: 本、バイオグラフィー、最新アップデート

お知らせ
英音研公式ブログ
お問い合わせ