- 英語リスニングに強くなる!英音研公式ブログ / 250.AIと経済社会
公開日
2025.12.21
更新日
2025.12.21
人工知能AIの進化により固定通信業の仕事はどうなるのか?
人工知能AIの進化は、知能レベルと適用範囲に基づき、2022年の終わりに出現した「特化型(ANI: Artificial Narrow Intelligence):生成AI」、2030年頃に出現するとされる「汎用型(AGI: Artificial General Intelligence)」、そして2040年頃に出現するとされる「超知能(ASI: Artificial Super Intelligence)」という、3つの異なるアーキテクチャと能力を持つフェーズで予測されています。今回はこのような人工知能AIの進化・普及が固定通信業務にどのようなインパクトを与えるか、生成AI(ANI)に予測してもらいました。
生成AI(ANI)による影響:2030年頃まで
固定通信業界(地域通信事業者)は、膨大な物理的インフラ(電柱、交換局、光ファイバー)と、地域に根差した巨大な保守・営業組織を抱えているのが特徴です。2025年現在、NTTグループが掲げる「AI For Quality Growth(質の高い成長のためのAI)」戦略のもと、生成AIは単なる「効率化ツール」から「業務のOS」へと進化しています。
一般的な固定通信会社の組織図に基づき、部門別の雇用影響と生存戦略を予測します。
生成AI(ANI)による影響:2030年頃まで
組織図・業務プロセス別の雇用影響予測
固定通信業は「設備」を維持する技術部門と、「契約」を維持する営業・事務部門に大別されます。
【設備・技術部門:インフラのスマート化】
物理的な作業が伴うため、完全な置換は遅れますが、判断業務はAIに移譲されます。
| 部署・機能 | 雇用の影響予測 | 生成AIによる変化のポイント |
| ネットワーク運用(NOC) | 大幅な減少 | 通信障害の予兆検知や一次対応をAIが自律化。ログ解析から復旧手順の作成までを数秒で完結。24時間体制の監視員は激減。 |
| 設備計画・設計 | 役割の高度化 | 過去の敷設データと地理情報をAIが解析し、最適な光ルート設計を自動生成。設計者の仕事は「AIが出したプランの現地適合確認」に。 |
| フィールドエンジニア(保守) | 維持〜効率化 | 現場での不具合特定に「生成AIマルチモーダル(画像・音声)」を活用。ベテランのノウハウをAIが即座に指示し、若手でも高度な修理が可能に。 |
【営業・コンサルティング部門:ソリューションの自動化】
法人向けDX(デジタル・トランスフォーメーション)支援が主戦場となります。
| 部署・機能 | 雇用の影響予測 | 生成AIによる変化のポイント |
| 法人営業・SE | 維持(質的変化) | 顧客企業の業界課題に合わせたDX提案書のドラフトをAIが即時作成。営業は「顧客との信頼構築」や「経営層の意志決定支援」に特化。 |
| コンシューマ営業・窓口 | 減少 | 複雑な料金プランや手続きはAIエージェントがアバターで完結。実店舗は「スマホ教室」や「地域の相談所」としての対面価値に集約。 |
【本社・管理部門:事務の徹底排除】
間接部門は、生成AIの恩恵を最も受ける一方で、人員削減の圧力が最も強くなります。
| 部署・機能 | 雇用の影響予測 | 生成AIによる変化のポイント |
| カスタマーサポート | 激減 | 高度な日本語解釈力を持つAIが、問い合わせの8割を自己解決。人間は「共感」や「複雑な苦情」の対応のみに。 |
| 経理・人事・総務 | 大幅な削減 | 伝票処理、採用スクリーニング、社内規定の回答はAIエージェントが完結。人間は「戦略的な組織開発」などの創造的業務へ。 |
AIに業務代替された従業員はどうすれば良いか(生存戦略)
固定通信業界は「地域のインフラを守る」という強い社会的責任(公共性)を持つ組織です。この強みを活かした転換がカギとなります。
① 「AIキュレーター・AIエージェント構築者」への転身
2025年のNTT戦略でも注目されている役割です。自社の業務知識を活かし、「現場で本当に使えるAI」を育てる側へ回ります。
- 具体策: 社内のドメイン知識(通信工学や約款の知識)をAIに学習させ、精度を向上させるプロンプトエンジニアやデータ整備投資。
② 「地域コミュニティ・DXプロデューサー」への転換
地方自治体や中小企業は、AIが導入されても「使いこなせない」という課題を抱えています。
- 具体策: ネットワークの知識に加え、自治体の行政フローや企業の商流を理解し、「AIを街や会社に組み込む」ための泥臭い調整役。
- 強み: NTTというブランド力と、地域に根差した人的ネットワーク。
③ 「デジタルトラスト・オーディター(信頼の番人)」
通信会社は「通信の秘密」を守る最後の砦です。AIが生成する情報の安全性や、データプライバシーが守られているかを監視・保証する役割です。
- 具体策: AIの挙動が法的・倫理的に適正かを監査する「説明責任」の引き受け手。
結論
固定通信業界において、「情報の正確な受け渡し」や「手順通りの保守」を行ってきた層はAIに代替されます。しかし、2025年以降の「AIが社会基盤となる時代」において、そのインフラを物理的に支え、「AIを人間に資する形で実装する責任」を負える人の価値はむしろ高まります。
AGI(汎用人工知能)による影響:2030年頃出現予想
AGI(汎用人工知能)の出現は、固定通信業界(地域通信事業者)のあり方を「ネットワークを維持する組織」から、知能がインフラを自律制御する「自律型デジタル神経系」へと進化させます。
AGIは、人間が行ってきた「複雑な状況判断」や「多部門にまたがる調整」を自律的にこなすため、組織図の各階層で役割が劇的に変化します。固定通信会社の標準的な組織図に基づき、部門別の雇用影響と生存戦略を予測します。
組織図・業務別の雇用影響予測
AGI時代には、これまで「ベテランの勘」や「高度な設計スキル」が必要だった業務ほど、AGIへの代替が進みます。
【ネットワーク・技術部門:自律型インフラへの移行】
固定通信の心臓部であるネットワーク運営は、AGIによって「無人化」の領域に到達します。
| 部署・業務 | 雇用の影響予測 | AGIによる具体的な変化 |
| 設備計画・設計 | 消滅に近い減少 | AGIが地形、需要、コスト、災害リスクを多角的に分析し、100%最適な光ファイバー網を瞬時に設計。人間による設計・積算業務は不要に。 |
| ネットワーク監視・運用 (NOC) | 消滅 | AGIがトラフィックを自律制御し、サイバー攻撃や障害を発生前に「自律修復」します。24時間体制の監視オペレーターは消失。 |
| R&D(IOWN等の開発) | 高度化・少数精鋭 | 物理学的な限界に挑む新技術の開発。人間はAGIを「思考の増幅器」として使い、理論の最終検証と社会実装の意志決定を担う。 |
【営業・ビジネス部門:価値提供の自律化】
「回線を売る」営業は消滅し、地域課題を解決する「プロデューサー」への転換が加速します。
| 部署・業務 | 雇用の影響予測 | AGIによる具体的な変化 |
| 法人営業・SE | 役割の質的転換 | AGIが顧客の経営データから課題を特定し、解決策を自律提案。営業担当は「AIが導いた正解」を経営者に納得させ、決断を促す「信頼の番人」に。 |
| コンシューマ営業(ショップ・受付) | 消滅 | AGI搭載のマルチモーダル・アバターが、あらゆる手続きを完結。実店舗は「物理的な体験場」や「高齢者への福祉拠点」へ完全に役割を変える。 |
【本社・管理部門:自律組織(DAO的)運用】
「管理のための管理」を行う中間層が最も大きな打撃を受けます。
| 部署・機能 | 雇用の影響予測 | AGIによる具体的な変化 |
| 人事・総務・法務 | 大幅な削減 | 採用、評価、法的判断、契約交渉のドラフト作成をAGIが完結。人間は「組織文化の定義」や「AIの倫理的暴走の最終チェック」に特化。 |
| 広報・経営企画 | 意志決定層への集約 | 無数の経営シナリオをAGIがシミュレート。人間は「どの未来を選択するか」という意志の表明のみを行う。 |
AIに業務代替された従業員はどうすれば良いか(生存戦略)
AGIは「知能」を代替しますが、「責任」と「身体的な信頼」を代替することはできません。
① 「フィジカル・レイヤー」のスペシャリスト
AGIはデジタル空間では無敵ですが、電柱を登り、切れた光ファイバーを繋ぎ、故障したロボットを修理する「手」を持っていません。
- 具体策: AGI制御の建設ロボットを指揮する現場監督や、災害時の「非標準的な環境」での物理的復旧を担う高度技能職。
② 「パブリック・アクセプタンス(社会的受容)」の調整者
固定通信は公共インフラです。AGIの判断(例:不採算地域の光回線撤去)が社会的に許容されるかを判断し、住民と対話する役割です。
- 具体策: 自治体や地域コミュニティと連携し、AIがもたらす変化を社会に「納得」させるエバンジェリスト。
③ 「インテント(意図)の設計者」
AGIは「どうやるか(How)」は知っていますが、「何を成したいか(Why)」という欲望を持ちません。
- 具体策: 通信インフラを使って「どんな新しい街を作りたいか」「どんな医療を実現したいか」という意志(インテント)を定義し、AGIに指示を出すプロデューサー。
結論:雇用へのインパクト比較
| 区分 | 変化前(旧来型) | AGI時代(予測) |
| 価値の源泉 | 通信技術の知識、事務の正確性 | 「責任」を取る意志、社会的倫理観 |
| 主要な役割 | 手順通りの保守・管理 | 非定型トラブルへの対応、共感と納得の提供 |
| 組織の形 | 巨大な階層型(ピラミッド) | 極少数の意志決定者と、現場の身体的専門家 |
ASI(人工超知能)による影響:2040年頃出現予想
ASI(人工超知能)の出現は、固定通信業界(地域通信事業者)を「ネットワークインフラを維持する組織」から、地球規模の知能が自律的に社会基盤を制御する「自律型デジタル神経系」へと進化させます。
ASIは人類全体の知能の総和を遥かに凌駕するため、論理的思考、数理設計、複雑な交渉、法理解に基づく「知能的労働」はすべてASIが完璧に担うことになります。固定通信会社の標準的な組織図に基づき、その衝撃的な雇用影響と生存戦略を予測します。
組織図・主要業務別の雇用影響予測(ASI時代)
ASIは「判断」と「実行」を自律的に行うため、組織図の多くのレイヤーが「無人化」または「責任のみの極小組織」へと向かいます。
| 部門・機能 | 雇用の影響予測 | ASIによる決定的変化 |
| 技術・設備部門(NOC・保守) | 消滅(物理作業除く) | ASIが数兆のセンサーを統合。障害予見、光パスの再編、トラフィック制御をミリ秒で完結。24時間監視や設備設計職は消失。 |
| 建設・保全部門(現場) | ロボット監督職へ | ASI制御の高度ロボティクスが敷設・修理を実施。人間は、AIが介入しきれない「特殊な土地権利者の説得」や「物理的な特殊救助」のみに限定。 |
| R&D(次世代通信開発) | 役割の終焉 | IOWN(アイオン)を超える次世代の光・半導体理論をASIが自律的に発明・実装。人間は「新技術がもたらす社会変化の受容」を担うのみ。 |
| 営業・法人ソリューション | コンサルタント消滅 | ASIが顧客企業の全データを分析し、最適解を直接実行。人間同士の「顔つなぎ」や「接待」の意味は、ASIの圧倒的効率の前で無効化。 |
| お客様サポート(窓口・センター) | 消滅 | 感情理解力を持つASIアバターが応対。トラブルそのものがASIの予見によって「発生前に解消」されるため、窓口は不要。 |
| 経営企画・管理(人事・財務) | 極小化 | 組織の資源配分、人事評価、法的判断をASIが最適化。人間は「法的責任」を負う少数の経営層のみに集約。 |
AIに業務代替された従業員はどうすれば良いか(生存戦略)
ASI時代、人間が提供できる価値は「知能」ではなく、「身体性(生身であること)」「責任(Accountability)」「共感(Empathy)」の3点に集約されます。
① 「ヒューマン・エシックス(倫理)監査官」
ASIが出した「最大効率の正解(例:不採算地域の光回線撤去)」が、人間社会の幸福や倫理と合致しているかを監視・調整し、社会に対する説明責任を負う役割です。
- 強み: 通信業界で培った「公共性」への理解と、人間社会の「納得感」を繋ぐブリッジ人材。
② 「地域コミュニティ・ガーディアン(信頼の番人)」
ASIは完璧な利便性を提供しますが、孤独や死の不安、他者との繋がりに飢える「生身の感情」を癒やすことはできません。
- 具体策: 物理的な拠点を活かし、高齢者の見守り、子育て支援、地域の合意形成など、「体温のある繋がり」を付加価値として売る役割へ転換。
③ 「フィジカル・レイヤーの最終決断者」
ASIが制御するデジタル空間ではなく、実際の「電柱」「地下管路」「土地」など、物理的な空間での「例外的なトラブル」や「権利調整」を、現場で泥臭く解決する役割。
- 具体策: 物理的なインフラを熟知し、AIには踏み込めない「人間同士の貸し借り」や「感情的なわだかまり」を解きほぐす。
進化段階別のインパクトまとめ(固定通信業界)
| 進化段階 | 固定通信業界の姿 | 雇用の焦点 |
| 生成AI (2025年現在) | 事務効率化、マニュアルのAI化 | 定型事務、一次受付の削減 |
| AGI (汎用人工知能) | 自律運用、設計の自動化 | 中堅エンジニア、事務職の消失 |
| ASI (人工超知能) | 事故・遅延の概念そのものが消失 | 「責任を取る者」と「寄り添う者」のみ |
結論:求められる「新しいリーダーシップ」
固定通信業界の最大のアセット(資産)は、地域に根差した「物理的なインフラ」と「人の繋がり」です。ASIは知能を無料で提供しますが、「誰が責任を負うか」「誰が地域の人々を安心させるか」という問いには答えません。
***
人工知能AIのパラダイムシフト:ANI、AGI、ASI
https://www.eionken.co.jp/note/ani-agi-asi/
著者Profile
山下 長幸(やました ながゆき)
・AI未来社会評論家
・米国系戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループ(BCG東京オフィス)及びNTTデータ経営研究所において通算30年超のビジネスコンサルティング歴を持つ。
・学習院大学経済学部非常勤講師、東京都職員研修所講師を歴任
・ビジネスコンサルティング技術関連の著書14冊、英語関連の著書26冊、合計40冊の著書がある。
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