- 英語リスニングに強くなる!英音研公式ブログ / 250.AIと経済社会
公開日
2025.12.20
更新日
2025.12.20
人工知能AIの進化により生命保険業の仕事はどうなるのか?
AIの進化は、知能レベルと適用範囲に基づき、2022年の終わりに出現した「特化型(ANI: Artificial Narrow Intelligence):生成AI」、2030年頃に出現するとされる「汎用型(AGI: Artificial General Intelligence)」、そして2040年頃に出現するとされる「超知能(ASI: Artificial Super Intelligence)」という、3つの異なるアーキテクチャと能力を持つフェーズで予測されています。今回はこのようなAIの進化・普及が生命保険業務にどのようなインパクトを与えるか、生成AI(ANI)に予測してもらいました。
伝統的な国内生命保険会社(生保)は、膨大な書類文化と対面営業を核としてきましたが、生成AI(ANI: 特化型人工知能)の普及は、この「人の手と紙」によるビジネスモデルを劇的に塗り替えます。
国内生保の一般的な組織図に基づき、本店と支部の各部門における雇用影響と生存戦略を予測します。
生成AI(ANI: 特化型人工知能)の普及:2030年ごろまで
【本店(本部機能)】の雇用影響予測
本店の業務は「文書の作成・照合・分析」が中心であるため、生成AI(ANI)の導入により、ホワイトカラー業務の生産性が30%〜50%向上し、人員の適正化(スリム化)が進みます。
| 部門・機能 | 雇用の影響予測 | 生成AIによる具体的な変化 |
| 契約査定・支払査定 | 大幅な削減・自動化 | 診断書や告知書の情報をAIが瞬時に構造化。標準的なケースはAIが自動判断し、人間は「疑義のある複雑な事案」の最終確認に特化。 |
| 商品開発・数理(アクチュアリー) | 高度化・時短 | 商品設計のシミュレーション、膨大な約款作成、数理計算コードの生成をAIが支援。定型作業が減り、高度な戦略立案へ集約。 |
| 営業企画・宣伝 | 制作の自動化 | パンフレットや販促メール、SNSコンテンツをAIがパーソナライズして自動生成。代理店向けのトレーニング資料も即時作成可能。 |
| 資産運用 | 調査業務の高速化 | 膨大なアナリストレポートやニュースの要約、企業分析をAIが実行。リサーチ担当の「作業時間」が大幅に短縮される。 |
| 管理部門(人事・法務・経理) | 大幅な削減 | 契約書のリーガルチェック、社内規程への回答、採用スクリーニングをAIが担う。定型事務ポストは激減。 |
【支部・拠点(営業推進)】の雇用影響予測
支店や支部(営業所)は、主に「営業職員(生保レディ等)の管理」と「事務手続き」を担っています。ここでの雇用は、デジタル化とAIによる「後方支援の無人化」の影響を強く受けます。
【支部事務・カスタマーサービス】
- 影響: 大規模な削減。
- 変化: 住所変更や名義変更、給付金請求の相談はAIチャットボットや音声AIが完結させます。支部の事務スタッフは「操作が困難な高齢者への対面サポート」などの例外対応のみに残ります。
【営業推進・支部長・オフィス長】
- 影響: 役割の変容。
- 変化: 営業職員の採用活動や育成(ロープレ指導)において、AIが個別の苦手分野を特定し、教育プログラムを自動生成します。管理職は「モチベーション管理」と「人間関係の調整」という感情労働に特化。
現場営業(営業職員・エージェント)への影響
- 影響: 二極化。
- 変化: 単なる「商品の説明と契約」のみを行う職員は、オンライン完結型のAIチャットに代替されます。
- 生き残り: 顧客の「万が一の際の不安」に寄り添い、家族構成や価値観を深く理解して「人生の伴走者」としての信頼を得られる高付加価値な職員へ集約されます。
AIに業務代替された従業員の生存戦略
国内生保の従業員が培ってきた「高い倫理観」「制度への深い知識」「顧客への共感力」は、AI時代にこそ希少価値となります。
① 「AIオーケストレーター(業務デザイナー)」への転換
現場の業務フローを熟知している強みを活かし、どの工程にAIを組み込み、どう効率化するかを設計する側(ブリッジ人材)に回ります。
- 具体策: AIの特性を理解し、現場のドメイン知識と掛け合わせて「AIが働きやすい環境」を整えるDX推進担当。
② 「ハイタッチ・ライフアドバイザー」への特化
AIにはできない「死や病に対する恐怖への共感」「家族の愛憎が絡む相続調整」など、ドロドロとした人間特有の感情を扱うプロを目指します。
- 具体策: CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)や相続診断士、心理カウンセリング等の資格を組み合わせ、属人性を極限まで高める。
③ 「デジタルトラスト・ガバナンス(倫理)担当」
AIが算出した保険料や査定結果が「公平か」「差別的でないか」を監視・保証する役割です。
- 具体策: 保険業法とAI倫理の知識を掛け合わせ、「AIの判断に対する人間としての署名」を行うリスク管理専門職へシフト。
生成AI(ANI)段階の雇用インパクトまとめ
| 変化のポイント | 以前(人間が手作業) | 生成AI導入後(人間+AI) |
| 事務コスト | 膨大な書類チェック・入力 | AIが即時照合・点検(ノーハンド) |
| 教育・育成 | 先輩の背中を見る・画一的な研修 | AIが個別に最適化した学習支援 |
| 価値の源泉 | 知識の量、手続きの正確さ | 共感力、判断の責任、倫理的保証 |
結論
伝統的な国内生保において、生成AI(ANI)は「正確に書類を処理する」という役割をほぼ完全に奪います。生存戦略は、AIを「最強の事務アシスタント」として使い倒し、自分は「顧客との信頼構築」や「AIの判断に対する法的・倫理的責任」に軸足を移すことにあります。
AGI(汎用人工知能)の出現による影響:2030年頃出現予想
AGI(汎用人工知能)の出現は、これまでの「一部の作業の自動化」とは異なり、「自律的な思考、判断、学習」をAIが行うことを意味します。伝統的な国内生命保険会社は、膨大な「事務(本社)」と「対面組織(支部)」の両方を抱えているため、その組織構造は根底から覆されます。
一般的な組織図に基づき、雇用への影響と、従業員が取るべき生存戦略を予測します。
本社(本部機能)における雇用影響
本社は「高度な専門知」と「ルールに基づく判断」が集約されているため、AGIの最も得意とする領域となります。
| 部署・機能 | 雇用の影響予測 | AGIによる変化の詳細 |
| 契約審査(アンダーライティング) | 壊滅的減少 | AGIは全医療データと統計を統合し、瞬時に引受可否を自律判断します。人間による「医務査定」は、前例のない新病や倫理的ジレンマを伴う極少数の案件に限定されます。 |
| 支払い査定(給付金管理) | 消滅に近い減少 | 診断書、カルテ、契約内容をAGIが完全に紐付けし、不正請求も完璧に検知。人の手を介さず「請求と同時に着金」が標準となり、数千人規模の査定事務が不要になります。 |
| 商品開発・数理(アクチュアリー) | 役割の質的転換 | AGIが数億通りのシミュレーションを自律実行し、最適な商品を5分で設計。数理の専門家は「計算」ではなく、AIの「倫理設定」や「社会正義」との調整を行う役割へ。 |
| 資産運用部門 | AI自律運用 | 世界中のマクロ経済データを24時間監視し、AGIが自律的にポートフォリオを組み替えます。ファンドマネージャーは「運用目的」を定義するだけの少数精鋭化が進みます。 |
支部・営業拠点における雇用影響
数万人規模の営業職員(生保レディ等)を抱える支部組織は、「情報の仲介者」から「情緒的インフラ」へと役割が強制的に純化されます。
| 職種・業務 | 雇用の影響予測 | AGIによる変化の詳細 |
| 営業職員(セールス) | 大幅な純減と高度化 | 単なる「商品説明」や「手続き代行」はAGI搭載のアバターで十分となります。残る職員は、顧客の「死への不安」や「家族の複雑な感情」に寄り添い、AIの提案を「納得」させる高度な心理的プロフェッショナルのみ。 |
| 支部事務(クラーク) | 消滅 | 営業職員の事務サポートや保全手続きはすべてAGIが代行。物理的な支部の事務ポストは消失します。 |
| 営業管理職(拠点長) | コーチングへの特化 | 成績管理や進捗管理はAGIが完璧に行います。拠点長に求められるのは、職員の「メンタルケア」や「モチベーションの維持」という、極めて人間的なマネジメントのみ。 |
AIに業務代替された従業員はどうすれば良いか(生存戦略)
AGI時代、「知識」や「事務処理能力」の市場価値はゼロになります。職を失う、あるいは役割を奪われた際に取るべき道は以下の3つです。
① 「ヒューマン・エモーショナル・パートナー」への転向
AGIは「正解」を出せますが、顧客の「悲しみ(グリーフ)」や「孤独」を心から癒やすことはできません。
- 具体策: 終活カウンセラー、遺族支援(グリーフケア)、認知症患者の資産管理に伴走する「パーソナル・ガーディアン」。金融知識を武器にしつつ、メインの価値を「共感」に置く。
② 「AIエシックス(倫理)&トラスト監査人」
AGIが「特定の属性を持つ人を差別的に排除していないか」を人間側から監視する役割です。
- 具体策: 保険業法というドメイン知識を活かし、AGIの判断プロセスが人間社会の倫理に適合しているかを監査し、社会に説明責任を果たす専門職。
③ 「ウェルビーイング・コンサルタント」
「万が一に備える」保険から、AGIの予測を基に「万が一を起こさせない」サービスへ転換します。
- 具体策: AGIのデータを読み解き、顧客の生活習慣を改善させる「予防医療・健康管理の並走者」。保険会社の枠を超え、ヘルスケア・テック領域のプロジェクトマネージャーへ。
結論:雇用へのインパクト比較
| 区分 | 現在 | AGI時代 |
| 雇用の中心 | 事務・オペレーション・販売 | 倫理監視・感情ケア・最終意志決定 |
| 組織図の形 | 巨大なピラミッド型 | 砂時計型(経営層と顧客接点のみ) |
| 求められる能力 | 言われた通りの正確性 | 問いを立てる力、共感力、責任力 |
ASI(人工超知能)の出現による影響:2040年頃出現予想
ASI(人工超知能)の出現は、伝統的な国内生命保険会社にとって「情報の非対称性」や「人的ネットワーク」で収益を得ていた時代の完全な終焉を意味します。ASIは全人類の知能の総和を遥かに凌駕するため、論理、計算、予測、法解釈に基づく業務のほぼすべてから人間が排除されます。
一般的な組織図に基づき、本部と支部の雇用への影響、および生き残り戦略を予測します。
組織図・業務別の雇用影響予測
ASIは「不確実性」を完璧に制御するため、保険というビジネスモデル自体が「事後の補償」から「事前の回避」へと溶け込み、組織そのものが極小化されます。
【本部(本社機能):知能の完全自動化】
本部に集中していた高度な専門職は、ASIにとって最も代替が容易な領域となります。
| 部署・機能 | 雇用の影響予測 | ASIによる決定的変化 |
| 商品開発・数理(アクチュアリー) | 消滅 | ASIが全人類のバイタル・環境データをリアルタイム解析。1秒ごとに変動する「超動的保険料」を自律生成。人間が計算する余地はゼロになります。 |
| アンダーライティング(引受)・査定 | 消滅 | 医療データやDNA解析から「死期」や「発病」を100%の精度で予見。引受判断や支払い手続きは瞬時に完了し、査定部という組織は不要に。 |
| 資産運用(財務・運用) | 無人化 | ASIが市場を完全に予測、あるいはASI同士が経済を回す状態に。ファンドマネージャー、トレーダーの雇用は消失します。 |
| IT・システム・企画 | 極小化 | システムの自己進化、自己修復が可能になり、エンジニアは不要。経営戦略もASIが導き出すため、人間は「法的責任」を負う数名のみ。 |
【支部・営業拠点:身体性と責任の場への変容】
物理的な拠点は「事務」を失い、純粋な「信頼の提供場所」としての価値のみが問われます。
| 職種・業務 | 雇用の影響予測 | ASIによる決定的変化 |
| 営業職員(直接販売) | 壊滅的減少 | 顧客はASI搭載のパーソナルAIと対話して保険を決定。人間から買う理由は「情報」ではなく「心理的安寧」や「義理」のみに純化。 |
| 支部事務(クラーク) | 消滅 | すべての事務がバックグラウンドで自動執行されるため、支部での事務機能は完全に消失します。 |
| 支社長・マネージャー | 役割の再定義 | 成績管理や採用などの実務はASIが代行。残るのは、職員を精神的に支え、地域とのウェットな関係を維持する「精神的支柱」のみ。 |
AIに業務代替された従業員はどうすれば良いか
ASI時代、人間が提供できる価値は「知能」ではなく、「身体性(生身であること)」と「最終的な責任」のみとなります。
① 「ヒューマン・エシックス(倫理)監査官」への転換
ASIが出した「生存確率に基づく差別的な判断(例:特定の遺伝子を持つ人に保険を売らない)」が、人間社会の倫理として許容されるかを監視・調整する役割です。
- 強み: 保険業法というドメイン知識と、人間社会の「納得感」を繋ぐブリッジ人材。
② 「グリーフ(悲嘆)コンシェルジュ」
ASIは完璧に保険金を支払えますが、家族を亡くした悲しみを癒やしたり、複雑な親族間の感情を解きほぐすことはできません。
- 具体策: 保険金という「手段」を使いつつ、終活、葬儀、相続後の生活再建までをトータルで支える、高度な対人調整役へのシフト。
③ 「実業(リアルアセット)の管理・運営者」
デジタル上の金融データはASIが支配しますが、物理的な土地、建物、介護施設などの「手触りのある価値」は、人間が管理する余地が残ります。
- 具体策: 生保が保有する膨大な不動産やインフラを、現場で人間に寄り添って運営するプロジェクトマネージャー。
進化段階別のインパクトまとめ
| 進化段階 | 伝統的生保の姿 | 雇用の焦点 |
| 生成AI | 事務の効率化、メール代行 | 事務職の削減開始、営業のデジタル化 |
| AGI(汎用知能) | 専門職の代替(査定・数理) | 「知識」を売るプロの失業 |
| ASI(超知能) | 保険のインフラ化(意識せず加入) | 「責任を取る人間」と「寄り添う人間」のみ |
結論としての提言
ASIの出現により、「保険のプロ」としてのアイデンティティは崩壊します。従業員が今から取り組むべきは、「AIには取れない責任を人間としてどう引き受けるか」、あるいは「AIが提示する正解に納得しない人間とどう向き合うか」という、極めて人間的なスキルの開発です。
特に伝統的生保の強みであった「人間関係の深さ」を、単なる販売手法ではなく、「コミュニティの維持」や「心理的安全性」という新しいサービス価値に昇華させることが、唯一の生存戦略となります。
***
人工知能AIのパラダイムシフト:ANI、AGI、ASI
https://www.eionken.co.jp/note/ani-agi-asi/
著者Profile
山下 長幸(やました ながゆき)
・AI未来社会評論家
・米国系戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループ(BCG東京オフィス)及びNTTデータ経営研究所において通算30年超のビジネスコンサルティング歴を持つ。
・学習院大学経済学部非常勤講師、東京都職員研修所講師を歴任
・ビジネスコンサルティング技術関連の著書14冊、英語関連の著書26冊、合計40冊の著書がある。
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