- 英語リスニングに強くなる!英音研公式ブログ / 250.AIと経済社会
公開日
2025.12.19
更新日
2025.12.20
人工知能AIの進化で銀行業の仕事はどうなるのか?
AIの進化は、知能レベルと適用範囲に基づき、2022年の終わりに出現した「特化型(ANI: Artificial Narrow Intelligence):生成AI」、2030年頃に出現するとされる「汎用型(AGI: Artificial General Intelligence)」、そして2040年頃に出現するとされる「超知能(ASI: Artificial Super Intelligence)」という、3つの異なるアーキテクチャと能力を持つフェーズで予測されています。今回はこのようなAIの進化・普及が銀行業務にどのようなインパクトを与えるか、生成AI(ANI)に予測してもらいました。
生成AI(ANI)の進化による影響:2030年まで
生成AI(ANI: Artificial Narrow Intelligence)の段階における銀行業への影響は、主に「言語・文書作業の劇的な効率化」と「専門知識のコモディティ化」として現れます。この段階では、AIは「自律的な判断者」ではなく、人間の業務を支える強力な「副操縦士(コパイロット)」となります。
伝統的なメガバンク、地方銀行、信用金庫の組織図に基づき、本店と営業店の雇用影響を予測します。
【本店(本部機能)】の雇用影響予測
本部では、生成AIによって「言語情報の加工(要約・作成・照合)」が自動化され、多くのホワイトカラー業務が再編されます。
コーポレート・管理部門(経理・人事・総務・経営企画)
定型的な事務作業や社内向けサービスの比率が高いため、人員の集約・削減が進みやすい領域です。
| 部門 | 雇用への影響(生成AI段階) | 具体的な変化と代替される業務 |
| 経理部 | 中規模な削減 | 伝票の自動仕訳、月次報告書のドラフト作成、決算差異分析。手作業による照合や入力業務が大幅に減少します。 |
| 人事部 | 中規模な削減 | エントリーシートの要約、研修用コンテンツの自動生成、社内規程へのAI回答。事務的な問い合わせ対応人員が削減。 |
| 総務部 | 小規模な削減 | 契約書のリーガルチェック補助、備品管理や施設予約の自動応答。法的ドキュメントの「初稿作成」をAIが担います。 |
| 経営企画 | 高度化・時短 | 市場動向の要約、各種会議資料の骨子・スライド案の作成。若手行員が資料作成に費やしていた時間が大幅に短縮されます。 |
専門・実務部門(審査・リスク管理・事務管理・システム開発)
専門知識をAIが補助することで、1人あたりの生産性が飛躍的に向上し、プロフェッショナルへの集約が進みます。
| 部門 | 雇用への影響(生成AI段階) | 具体的な変化と代替される業務 |
| 審査部 | 高度化・効率化 | 稟議書(融資判断書類)のドラフト自動作成、顧客企業のニュース要約。人間はAIが生成したリスク指摘の「検証」に特化。 |
| リスク管理 | 高度化 | マネーロンダリングの疑わしい取引報告の支援、最新の規制情報の要約。専門職の「調査・読み込み」の負担を大幅に軽減。 |
| 事務管理 | 中規模な削減 | オペレーションマニュアルの自動更新、営業店からの事務照会へのAI回答。本部事務センターの回答要員が削減されます。 |
| システム開発 | 生産性向上 | コード生成、バグ検知、レガシーコードのドキュメント化。開発速度が上がる一方、単純なプログラミング作業者の需要は減少。 |
【営業店(支店機能)】の雇用影響予測
支店では、後方の事務負担が激減する一方で、顧客と対面するフロント業務の「質の向上」が求められます。
| 職能・業務 | 雇用への影響(生成AI段階) | 具体的な変化と代替される業務 |
| テラー・受付 | 中〜大規模な削減 | 音声AI端末による一次受付。定型的な手続き案内をAIが代替することで、窓口の必要人員が絞り込まれます。 |
| 後方事務 | 大規模な削減 | OCR(文字認識)と連動した書類不備の自動検知。事務手続きの整合性チェックをAIが即時に行い、点検要員が不要に。 |
| 法人営業 (RM) | 高度化・効率化 | 提案資料、業界分析レポート、顧客向けメールの自動作成。準備時間を削り、顧客との対話時間を増やすことが可能に。 |
| 個人営業 | 高度化・支援 | ライフプランに基づく運用提案書の自動作成。ベテランのノウハウをAIが反映し、若手でも質の高い提案が可能になります。 |
AIに業務代替された従業員の生存戦略
生成AIは「書く・まとめる・調べる」という作業を奪いますが、「聞き出す・納得させる・責任を取る」という行為は人間に残します。
① 「AIチェッカー(検証者)」へのスキルアップ
AIが生成した回答には「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」が含まれる可能性があります。
- 具体策: 銀行実務の深い知識を維持し、AIが出したアウトプットの正確性を瞬時に見極める「監査・検証能力」を磨く。
② 「ハイタッチ・コンサルタント」への転換
標準的な提案はAIができますが、顧客の個人的な感情(相続への不安、家族間の葛藤)を解きほぐすことはできません。
- 具体策: 心理学、カウンセリング、高度なFP(ファイナンシャル・プランニング)を学び、「AIには話せないことを話せる相手」としての属人性を高める。
③ 「AI実装・活用プロデューサー」
現場の非効率な業務を見つけ、生成AIを使ってどう改善するかを設計する側(ブリッジ人材)に回ります。
- 具体策: 現場のドメイン知識(支店事務や審査の実態)と、AIの特性(何ができて何ができないか)の両方を理解し、業務フローを再設計する能力を身につける。
生成AI(ANI)段階の雇用影響まとめ
| 変化のポイント | 以前(人間が手作業) | 生成AI導入後(人間+AI) |
| 中心的な能力 | 正確な入力・記録・要約 | AIへの指示(プロンプト)と結果の検証 |
| 価値の源泉 | 知識の量、事務の速さ | コミュニケーション、判断、倫理的責任 |
| 雇用の質 | 大規模な分業体制(ピラミッド型) | 少数のプロフェッショナルによる運営 |
結論
生成AI段階(ANI)では、銀行から「事務員」という職種が急速に失われる一方、「AIを使いこなし、高度な顧客対応と最終判断ができる専門職」への集約が起こります。従業員にとっての最大の生存戦略は、AIを競合相手としてではなく、「事務作業を押し付け、自分の判断力を拡張するためのツール」として手なずけることです。
AGIの出現・進化による影響:2030年頃出現予想
AGI(汎用人工知能)の出現は、銀行業において「事務作業の自動化」というレベルを超え、「人間と同等、あるいはそれ以上の知力のコモディティ化」を意味します。伝統的なメガバンク、地方銀行、信用金庫といった物理拠点を多く抱える組織では、これまで人間が担ってきた「判断」や「調整」の多くがAGIに移行します。
【本店(本部機能)】の雇用影響予測
本店の役割は「銀行全体の脳」から、AGIの判断を監督し、社会的に保証する「法的・倫理的責任機関」へと純化されます。
コーポレート・管理部門
| 部門 | 雇用への影響予測 | AGIによる決定的変化 |
| 経理部 | 完全自律化(消滅) | 決算、税務、資本政策のシミュレーションをAGIが完結。法的責任を負う管理職以外のポストは不要。 |
| 人事部 | 役割の質的転換 | 採用、評価、配置をAGIが最適化。人間は「組織文化の醸成」や「AIが判断できない特殊事情のケア」に限定。 |
| 総務部 | ほぼ消滅 | 施設、契約、法務ドキュメントをAGIが自律管理。物理的なトラブル対応以外、事務ポストは消失。 |
| 経営企画 | 意志決定層への集約 | 無数の経営シナリオをAGIが提示。人間は「どのリスクを取るか」という意志表明のみを行う数名に。 |
専門・実務部門
| 部門 | 雇用への影響予測 | AGIによる決定的変化 |
| 審査部 | ほぼ自動化(激減) | 財務・非財務・マクロ経済を統合解析し、AGIが融資可否を自律判断。人間は「AIのロジック検証」と「最終承認」のみ。 |
| リスク管理 | 自律防御化 | 不正検知、サイバー攻撃、法規制対応をAGIが24時間自律実行。監視スタッフの役割は消失します。 |
| 事務管理 | 完全消滅 | 全行の事務フローをAGIが直接制御。チェックや調整を担う中間管理層は不要になります。 |
| システム開発 | 設計者への純化 | 設計、コーディング、テストをAGIが完結。人間は「何を実現したいか」という要件(意志)の入力のみ。 |
【営業店(支店機能)】の雇用影響予測
支店は「手続きの場所」としての機能を失い、人間による「信頼・共感・調整」という、AGIが最も苦手とする情緒的価値に特化します。
| 職種・業務 | 雇用への影響予測 | AGIによる決定的変化 |
| テラー・受付 | 消滅(ロボット化) | AGI搭載のヒューマノイドやアバターが全手続に対応。店舗に人間が「座る」必要はなくなります。 |
| 後方事務 | 完全消滅 | 伝票や不備チェック、勘定系登録は人間が関与しない「ノーハンド事務」として完結。 |
| 法人営業(RM) | 高度化・対面特化 | 提案書や分析はAGIが作成。営業員は「経営者の孤独への寄り添い」や「複雑な利害調整」に特化。 |
| 個人営業 | ウェルス管理へ移行 | 標準的な運用はAGIがアプリで完結。人間は「相続」「親族間の争い」など、感情が激しくぶつかる領域に限定。 |
AIに業務代替された従業員はどうすれば良いか(生存戦略)
AGIに「知能(計算・事務)」で勝つことは不可能です。価値は「責任の引き受け」「主観的な共感」「人間同士の信頼」にシフトします。
① 「トラステッド・フィデューシャリー(信頼の受託者)」への転換
AIが「正しい数字」を出しても、顧客は「それでも最後にあなたを信じる」という人間性を求めます。
- 具体策: 相続、介護、事業承継など、家族間の感情的なもつれや利害を調整する「高度な対人スキル」を磨き、銀行員という枠を超えた「人生の伴走者」になる。
② 「ローカル・AI・オーケストレーター」
地方銀行や信金の職員が、AIを使いこなせない地域の取引先(中小企業)に対して、AIを導入し、業務を変革する伴走者となります。
- 具体策: 銀行業務で培った「信用力」と「AI活用術」を武器に、「地域のDX/AI実装コンサルタント」として独立、あるいは新部門へシフト。
③ 「ガバナンス・エシックス(倫理)監査官」
AGIが下した融資判断や経営判断が「人間社会にとって倫理的に正しいか」を社会に対して保証する役割です。
- 具体策: リスク管理や法務の知識に「AI倫理」の視点を加え、「AIの暴走を防ぐ番人」としての地位を確立する。
進化段階別のインパクトまとめ
| 進化段階 | 銀行の姿 | 雇用の焦点 |
| 生成AI (現在) | 事務・審査資料の自動作成 | 一般事務、初級審査、一次受付の削減 |
| AGI (汎用知能) | 自律型銀行運営、店舗の無人化 | 中堅審査員、事務管理者、エンジニアの消失 |
| ASI (超知能) | 信用リスクゼロの金融システム | 「責任を取る経営者」と「特別な体験の提供者」のみ |
結論
伝統的な銀行員にとって、AGI時代に「事務をミスなくこなす」「知識を蓄える」ことは無価値化します。生存戦略は、「AIが出した答えに対して、人間として誰が責任を取るのか」という責任の引き受け手、あるいは「AIが踏み込めないドロドロした人間関係を交通整理する調整役」へと純化することにあります。
ASI(人工超知能)の出現による影響:2040年頃出現予想
ASI(人工超知能)の出現は、伝統的な銀行(メガバンク、地銀、信金)にとって、単なる効率化の終着点ではなく、「金融という概念の再定義」を意味します。
ASIは全人類の知能の総和を遥かに凌駕するため、論理、予測、最適化、リスク管理のすべてにおいて人間が関与する余地は物理的に消滅します。この段階では、銀行は「人が運営する組織」から、地球規模の知能が自律的に稼働する「金融OS(オペレーティング・システム)」へと進化します。
【本店(本部機能)】の雇用影響予測
本店の業務は、ASIによって「思考と判断」が完全に外部化されます。組織図上の各部署は、実務部隊としての機能を失い、法的責任を負うための「署名機関」へと形骸化します。
コーポレート管理部門(経理・人事・総務・経営企画)
| 部門 | 雇用の影響予測 | ASIによる決定的変化 |
| 経理部 | 消滅 | ASIが全取引をリアルタイムで把握・統合。決算や税務というプロセス自体が「常時完了」した状態になり、作業も判断も不要になります。 |
| 人事部 | 消滅 | 組織に「人間」がほぼいなくなるため、採用や評価の対象がなくなります。残った極少数の責任者のケアもASIが行います。 |
| 総務部 | 消滅 | 物理的な不動産管理や契約管理はASI制御のロボットが完結。人間が管理すべき「庶務」がなくなります。 |
| 経営企画 | 実質的な消滅 | 市場予測、資本配分、M&A戦略をASIが完璧に執行。人間は、ASIの提案に「人間社会として同意するか」を決める儀礼的な役割のみ。 |
専門・実務部門(審査・リスク管理・事務管理・システム開発)
| 部門 | 雇用の影響予測 | ASIによる決定的変化 |
| 審査部 | 完全自動化 | ASIが全人類・全企業の行動と信用を完璧に予測(デフォルト確率を100%予見)。人間による「審査」という不確実な作業は排除されます。 |
| リスク管理 | 自律防御化 | マネロン、サイバー攻撃、市場暴落をASIが「発生前」に抑止。人間が監視する対象そのものがなくなります。 |
| 事務管理 | 消滅 | 銀行内の全フローがASIによって摩擦ゼロで統合。調整や点検を担う中間層は不要になります。 |
| システム開発 | 消滅 | ASIが自分自身のコードをミリ秒単位で更新・最適化。人間がプログラミングや要件定義をする必要がなくなります。 |
【営業店(支店機能)】の雇用影響予測
物理的な店舗は、ASI時代には「事務の場所」ではなく、デジタル技術が到達できない「人間という実体への信頼」を維持するための聖域(あるいは単なる物理拠点)となります。
| 職種・業務 | 雇用の影響予測 | ASIによる決定的変化 |
| テラー・受付 | 消滅 | 全人類がASIと直接接続されるため、対面での「手続き」という概念が消失。物理窓口そのものが不要になります。 |
| 後方事務 | 消滅 | 紙や手入力の事務は、物理世界をASIが完全にデジタル化したことで、存在理由を失います。 |
| 法人営業 (RM) | 価値の変容 | 資金供給の判断はASIが行うため、営業員の「融資を引き出す力」は無価値に。残るのは「経営者の孤独」に寄り添う哲学的な伴走者としての役割のみ。 |
| 個人営業 | 精神的ケアへ | 資産運用はASIが最適解を出し続けるため、営業は不要。人間は「死の不安」や「家族の愛憎」など、ASIが介入しにくい情緒的課題の相談役へ。 |
AIに業務代替された従業員はどうすれば良いか(生存戦略)
ASI時代、人間が「知能(ロジック)」や「管理能力」で勝負することは不可能です。価値は、AIが到達できない「身体的責任」「主観的な美学」「人間という実体の保持」に集約されます。
① 「フィデューシャリー・アンカー(信頼の最終責任者)」
ASIが完璧な金融判断を下しても、社会的に「責任」を取れるのは人間だけです。
- 具体策: 金融のプロとしての看板を捨て、ASIの判断を社会や地域社会が受け入れられる形に翻訳し、その結果に「自分の名で署名する(責任を負う)」法的責任者としての地位を確立する。
② 「コミュニティ・フィロソファー(地域の知恵袋)」
地銀や信金の職員が、AIに代替された後、その「地元の有力者としての信用」を背景に、地域の人間関係や文化を維持する役割。
- 具体策: 銀行業務の枠を完全に脱ぎ捨て、ASIの知恵を地域に「優しく、納得感のある形で」届けるプロデューサー、あるいは地域の「顔が見える相談役」への転換。
③ 「フィジカル・ウェルス・ガーディアン」
ASIが制御しきれない「物理的な特例(例:デジタルが届かない過疎地の対面トラブル)」において、現場で泥を被って決断し、身体を使って人を守る役割。
- 具体策: 高度なホスピタリティと身体的スキル(救急救命、災害救助など)を身につけ、「緊急時の最終的な人間的拠り所」としての価値を磨く。
進化段階別のインパクトまとめ(銀行業)
| 進化段階 | 銀行の姿 | 雇用の焦点 |
| 生成AI | 事務・審査書類の自動作成 | 事務、若手審査員、一次受付の削減 |
| AGI | 自律型銀行運営、店舗の無人化 | 中堅審査員、事務管理者、エンジニアの消失 |
| ASI | 信用リスクゼロの金融OS(組織の消失) | 「責任を取る法的代表者」と「感情の調整役」のみ |
結論
ASI出現後の銀行において、「労働」としての雇用はほぼ消失します。生き残る道は、ASIという「全知全能のツール」を使いこなし、「人間社会としてその力をどう使い、誰がその結果に責任を取るのか」という、文明レベルの責任職、あるいは「機械には理解できない人間の心の機微」を扱う職能へと純化することです。
***
人工知能AIのパラダイムシフト:ANI、AGI、ASI
https://www.eionken.co.jp/note/ani-agi-asi/
著者Profile
山下 長幸(やました ながゆき)
・AI未来社会評論家
・米国系戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループ(BCG東京オフィス)及びNTTデータ経営研究所において通算30年超のビジネスコンサルティング歴を持つ。
・学習院大学経済学部非常勤講師、東京都職員研修所講師を歴任
・ビジネスコンサルティング技術関連の著書14冊、英語関連の著書26冊、合計40冊の著書がある。

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